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徳島地方裁判所 昭和34年(む)55号 判決

被疑者 折原武 外二名

決  定

(被疑者氏名略)

右被疑者等に対する各賍物故買被疑事件につき徳島地方裁判所裁判官が昭和三四年一一月八日した勾留請求却下の裁判に対し徳島地方検察庁検察官から同日右裁判の取消を求める旨の準抗告の申立があつたので当裁判所は併合審理の上次のとおり決定する。

主文

被疑者等に対する検察官の勾留請求につき徳島地方裁判所裁判官が昭和三四年一一月八日した右請求却下の裁判をいずれも取消す。

理由

検察官の本件申立の要旨は別紙準抗告理由書に記載のとおりである。

そこで検察官提出の各資料を検討すれば本件各被疑事実につき一応の疎明があると認められる。

次に罪証隠滅の虞があるかどうかについて判断する、右各資料によれば被疑者等は被疑者折原武を中心として前記肩書の如くそれぞれ一応の職務の分担を定め共同で自動車修理販売業三和モータースを経営し昭和三四年七月頃大阪在住の金八根との間に盗品たる原動機付自転車等の継続的供給契約を結び以後これに基いて約五〇台の原動機附自転車等の供給を受けたがそのうち同年一一月五日金から引渡を受けた原動機附自転車二台中一台が本件賍物故買の被疑事実となつているものである、従つて本件被疑事実特にそのうちで賍物の知情の点並びに被疑者等の共謀の点を確定するためには右の包括的な継続的供給契約が結ばれた当時の状況、その契約の内容それ以後同年一一月五日までの間に現実に行なわれた取引の態様方法これら取引において被疑者三名が果した役割取引内容についての相互認識の程度等につき具体的に取調べる必要があると考えられる、ところがこれらの諸点についての被疑者等の司法警察員に対する供述は一応大綱において相互に一致しているものの具体的な点については矛盾もありまた検察官および原裁判官に対する被疑者等の供述を見れば被疑者折原同岡田の両名は本件被疑事実を否認し居りさらには本件窃盗本犯の供述その他本件事案の性質等から考えると被疑者等が相互に通謀するときは前記諸点につきその罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるといわざるを得ない。

そうすると刑事訴訟法六〇条一項二号に従い本件被疑者等をいずれも勾留すべき理由があるから本件申立を正当として認容すべきであり勾留請求を却下した原裁判はいずれも失当として取消すべきである、よつて同法四三二条四二六条二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 津田真 松田延雄 平山雅也)

準抗告理由書

被疑者三名は徳島市西大工町四丁目一番地において、自動車修理販売業三和モータースを共同経営しているものであるが、本年六月中旬頃窃盗被疑者金八根との間に盗品である自動車の継続的供給契約を締結し本年十一月五日迄の間に大阪に在住する金八根より共正海運会社の船便を利用して約五十台の自動車を購入して県下の業者に売却しその利益により事業を継続していたもので右の一環として右の被疑事実がなされたものである。

(1) 先づ知情の点について

被疑者折原武は右三和モータース経営の責任者となり傍ら修理をなし被疑者岡田源一は同モータースの事務並に会計全般を担当し被疑者林源一郎は同モータースの外交販売を担当し共謀の上本件犯行をなした容疑者であるが、被疑者折原は本件被疑事実につき取引の内容を知らずと終始弁解しており、又裁判官に対し被疑者岡田源一は共謀を否認し品物が普通でないと考えたのは九月中頃である旨供述し又被疑者林源一郎も賍品でないかと思うようになつたのは九月末頃であると弁解しておる。而して窃盗本犯の容疑ある金八根の警察における供述によれば本年六月頃同人方において被疑者折原との間に盗賍品である原動機付自転車を今後継続的に取引する契約をなし発送人受取人名を偽名とすること運送海運会社を指定し古物台帳等に記載しないこと等の対策協議をなして順次五十余台の取引がなされた疑があり本件被疑事実の知情の点についてはこの包括的継続的取引契約の内容を確定して始めて明らかになる事情にあり、かくて被疑者折原を中心に岡田、林の三被疑者間の共謀の点を取調べる必要が生じている。

右被疑者三名は前述の如く業務を分担しており裁判官勾留尋問においても供述がまちまちであつて任意捜査に移せば通謀等により之が知情の取調が不可能となる虞れが十分にある。

(2) 次に賍品の確定について

本件被疑事実の被害品は確定されておるが被疑者等には同日同時になされた同種の賍物故買があるところ未だその被害品の確認がなされておらず、更に五十数台の賍品について只共正海運の荷受状況はオートバイ何台程度しか判らず現在京阪神方面においてこの種窃盗事件が多発しているのでオートバイ何台の程度では被害確定不能の状況にあり被疑者について賍品の特徴その処分先等を取調賍品を領置の上車体番号ヱンヂン番号を調査し所轄行政庁に問合すと共に被害届の調査を適当警察署に嘱託しなければならない事情にある。もし被疑者三名が通謀してその処分先を秘し或いは処分先に事前連絡して買受以外の別な原動機付自転車を任意提出せしめる等の手段に出れば賍物の確定は不能の状況になる。

(3) 逃亡の虞れについて

被疑者が処分した賍品の買受先より賍品の取調或いは領置をなした場合一台十万円以上の原動機付自転車なれば買受人は被疑者らに対しその責任追及をなすは必至とみられ之を逃れるため或いは所在をくらます虞れなしとしない現状である。

以上の状況を勘案の上裁判願いたい。

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